予防と健康管理ブロック レポート

@はじめに

 今回のレポートにおいては、「職場における心のケアと自殺予防」、「地域保健におけるうつ・うつ病への働きかけ」の2つの論文を参考にした。

A「職場における心のケアと自殺予防」の論文

(1)労働者の自殺の現状

 国の統計(厚生労働省人口動態統計)によると、自殺者の数は1997年から98年にかけて、23494人から31755人へと急増した。2003年の自殺者数も3万人を上回っており、今もなお予断を許さない状況が続いている。職場における自殺に関しては、自殺による労働災害や、過労自殺の民事訴訟が近年注目されている。1999年には、厚生労働省により、精神障害や自殺に関する業務上外の判断基準が公表され、これまで事例の少なかった自殺やうつ病に対する労働災害補償の判断がより容易に行えるようになった。その後、精神障害や自殺に対する労働災害補償請求の件数が大幅に増加し、また、認定件数も増加している。一方で、長時間労働や過重な業務の後に自殺した労働者の遺族が事業場を訴える、民事訴訟も注目を集めている。このように労働者の自殺の増加、またこれに関して企業の責任が問われる場面が多くなり、事業場が自殺を予防するための対策を真剣に検討する必要のある時代になったといえる。

 それでは、事業場における自殺予防対策をどのように立案すれば良いか。まず労働者の自殺について、これまでの研究成果からどの事業場のどの職場に自殺リスクが高いかを明らかにし、事業者ごとの自殺リスクの評価をしてみる。

(2)労働者の自殺リスク

 2002年2月から3月にかけて実施された「事業場における心の健康づくりの推進方法に関する全国調査」では、労災保険対象事業場リストから無作為に選ばれた全国の1335の事業場に無記名式の調査票を郵送し、412の事業場から回答を得た。調査票では対象事業場で過去1年間で自殺者がいたかどうかを、「はい」、「いいえ」、「答えたくない」の3件法によって質問した。また人事・労務担当者が当該事業場で従業員にとって、ストレスと考える事柄について15項目から選択してもらった。その結果、従業員が50人未満の事業場では自殺者のいた事業場はなかった。従業員が50人以上である321の事業場のうち、過去1年間で「自殺者がいる」と答えた事業場は14社(4.0%)であった。つまり、事業場においては1年間で25社に1社の割合で自殺が起きる可能性があることになる。

 上に述べた労災保険対象事業場を対象とした調査では、人事・労務担当者から何が従業員のストレスになっているかを尋ねた。その結果、各事業場における従業員の主要なストレスのうち、自殺のリスクと関連したのは「仕事量が少ない」、「リストラや雇用不安」、「個人や家庭の問題」であった。不況のために業務量が減少し、雇用不安の大きい事業場で自殺のリスクが高まるものと思われる。

 ある電気関連メーカーの事業場を対象とした質問票調査に回答した5557人を5年間追跡し、その間の自殺者を記録した。その結果、残業時間が長く、変化の激しい職場において自殺リスクが高まるということが推測できる。

 2000年の職業別の年齢調整自殺率を見ると、男性では農林漁業、サービス業、専門技術職の自殺率が上位である。1995年と比べて、男性の管理職、専門技術職、サービス業で増加率が高い。また、男女とも無職者の自殺率が就業者の約7倍高く、無職者における増加率も高い傾向にある。しかし無職者は必ずしも失業者とは限らず、高齢者も含んでいる。

 警視庁「自殺の概要」による自殺の原因・動機は健康問題が最も多く、経済・生活問題、家庭問題がこれに続いている。自殺予防のためには労働者の精神疾患にも注意する必要がある。

(3)事業場における心の健康づくりと自殺予防対策の仕組み

 今日の日本の事業場におけるメンタルヘルスケアは2000年8月に労働省(現厚生労働省)から出された「事業場における労働者の、心の健康づくりの指針」に基づいて実施されている。この指針では、事業者がメンタルヘルスを重要と考え、これに積極的に取り組むという方針を表明し、事業場のメンタルヘルスケアを計画的に実施することを求めている。

 労働者の自殺予防対策は、事業場における一般的な心の健康づくりの中で対応できる部分がかなりあると考えられる。また、自殺発生後の対応など、自殺に特化した対策も重要であることが指摘されている。

  自殺事例の検討やこれまでの自殺事例の研究から、自殺者の半数から3分の2程度がうつ病あるいはうつ状態にあったと推測される。しかし、医療機関を受診するものはこのうちの3分の1程度で少ないことが知られている。また、アルコール問題や大量飲酒が自殺のリスクと関係していることが知られている。事業場における自殺予防は、うつ状態・うつ病、あるいはアルコール問題への対処が中心になると考えられる。

 一方で、自殺のうつ病やアルコール依存症のものに対しては、これを早期に発見し、必要な相談対応を行うのである。特に自殺者のなかに未受診のうつ病者が多く見られることから、職場の上司や同僚のうつ病の早期発見と相談対応、必要な場合には専門的な治療の紹介という、メンタルヘルスの相談体制が確立されることで効果的な自殺予防につながると期待されている。

 最後に、自殺予防に特化した対策としては、自殺発生後の対応、自殺未遂者に対するケア、自殺に関する教育、啓発があげられる。しかし、自殺に対する偏見や情報の隠蔽がごく一般的である事業場でどのように自然発生後の対応を

実施するかが大きな課題である。

(4)事業場における自殺予防対策を推進するためのツール

 職場における自殺予防のためには、第1に、事業者がまず事業場の自殺リスクを評価し、また心の健康づくりを含めた自殺予防のための対策の実施状況が、事業場として十分であるかどうかを事故評価し、不足な点を自ら捕捉していくことが大事である。第2に、労働者、管理監督者、家族に対しては、自殺やその危険因子となるうつ病に関する知識を得て、自ら又は周囲のサインに気づき、必要に応じて産業保健スタッフや専門化に相談できるような教育研修を行うことが重要である。第3に、産業保健スタッフが相談を受けた時に、対象者のうつ病を見逃さず評価でき、また自殺のリスクの程度を判断し、専門館に紹介することが重要である。

 事業場における自殺予防対策のプロセス評価のために新しいツールが開発された。これが「事業場における心の健康づくり対策の実施状況チェックリスト

」である。次に、永田らは管理監督者、一般労働者、家族用の自殺予防マニュアルを作成しており、廣らは産業医師や産業看護師などの産業保健スタッフが労働者のうつ病を見逃すことなく簡便なうつ病の構造化面接法を開発している。

 最後に、不幸にして自殺が起きてしまったときには、遺族に対する適切なケアが欠かせない。このような大きな出来事の後の、心のケアの手法として、影響を受けた人を集め、集団で体験を語り、ストレスフルな影響を緩和させるディブリーディリングというものがある。

(5)最後に

 日本での職場における自殺予防対策について、平成1415年度の「労働者の自殺リスクの評価と対応に対する研究」に基づいて、職場での自殺、予防対策のあり方について述べた。

 

B「地域保健におけるうつ・うつ病への働きかけ」の論文

(1)異なるうつの定義

 マスコミはうつ病が増えていると言っているが、本当に増えているのだろうか。マスコミのこのような報道によって不安を持つ人が、地域住民の中にはいるだろうと考えられる。

 こうした不安を持つ地域住民に対して地域保健関係者はどのように接しなければならないだろうか。公衆衛生の基礎である疫学を考えれば、ある疾患が増えているか減っているかどうかはしっかりした枠組みを持った疫学的調査に基づいて理解されるべきだろう。

 では、増えているうつ病に関して、このような調査やモニターは行われているのか。残念ながら、そのようなことが行われているとは聞かない。

 うつ病はどのように定義されているのか。そこには問題があり、精神医学上のうつ病の定義が問われるだけでなく、調査をするにあたりどのような定義を用いたかが問われなくてはならない。

 あと、マスコミが言う「うつ病」と精神医学上の「うつ病」は必ずしも合致しない。マスコミが言ううつ病には、精神医学上の「うつ病」の意味と、それに加えて一般用語として使う「落ち込み」や「憂うつ」にあたるものも含んでいると考えられる。この論文にでは、これらを「うつ、うつ病」と表現する。

(2)年齢軸と症状の深さ

 年齢軸で考えるだけでも、子供、サラリーマン、子育て中の母親、高齢者、介護者のうつがある。これらのうつに地域保健関係者として、どのようにかかわるかを考えなくてはならない。うつの程度にも、軽い落ち込みから自力回復が難しい落ち込みまである。だから、年齢軸からだけでなく、うつの深さからも注意深くかかわり方を考えなければならない。

(3)子供のうつ

 子供のうつには、保育園、幼稚園児の時からあり、学生のうつも問題になる。

うつ病は、人格がかなり形成されてきた時に生ずると考えられている。だから小さい子にはうつ病は起こりにくいが、かといって小さい子にうつがないとは言いきれない。なぜならうつには反応性のものがあるからだ。この反応性のうつには小さい子に見られるうつの典型的なものである。つまり、小、中学校の生徒にはかなりうつの人がいると考えられる。

(4)問題行動に潜む「うつ」

 「精神保健活動」か「母子保健活動」かではなく、常に住民側にたった保健活動を大切にしながら、問題となる行動の背景にうつが潜んでいることを見抜いていかなくてはならない。

(5)地域保健の新しいあり方

 今、地域保健活動は大きく変わりつつある。それは健・検診によって疾患や障害を早期発見することを重視してきたといえる。しかし、これらのことを中核にして展開するのではなく、啓発活動や健康教育活動を重視しながら健康相談を行うことが重要であり、このような地域保健活動を展開した上で健・検診を展開すべきと考えられるようになった。

 では、このような中でうつ、うつ病に関する地域保健活動をどのように進めていくべきかを考えていこうと思う。

 

 

(6)啓発活動のポイント

 「うつ・うつ病」への働きかけとして第1にすべきことは、啓発活動を通して心をどのようにとらえるかを伝えることである。うつに関する理解が深まると、問題行動に振り回されることなく、本質をついた地域保健活動ができるようになる。

(7)治療環境を整える

 第2は、薬物療法への導入を図ると共に、精神療法的な働きかけを行えるような治療環境を整えることである。うつの多くは薬物を用いると早く脱却できる。ただ、苦しみからあっさり抜け出てしまうと、うつに陥ったことが学習としての意味を持たなくなってしまう。うつも経験の1つなので、再びうつに陥らないような生活をするためには、その経験を生かすことが重要だから、精神療法的な働きを加えたほうが良い。

(8)うつへの理解を深める。

 第3はリハビリテーションであるが、そのためには家族をはじめ、学校関係者や職場関係者にうつについての正しい理解を深めてもらう必要がある。周囲の人たちが、うつになっている人の行動をおかしいとは思わず、うつについて理解を深めてもらうことが重要である。そうした環境作りが進めば、うつになっている人の問題行動の再発を防止すると共に、環境要因によるうつの再発を防ぐ事が出来ると考えられる。

C終わりに

 このレポートを終えて思ったことは、うつに対する知識が増えたことである。「地域保健におけるうつ、うつ病への働きかけ」の論文を読んだ時に、私自身が中学、高校時代に一時期自分より強い人との喧嘩沙汰などで学校に行くのが嫌になり、うつ状態になったことを思い出し、そのころうつ状態になったのは今になって反応性のものではないかと予測できた。

 また、「職場における心のケアと自殺予防」の論文を読んだ時に、410日に予防と健康管理の授業で見たビデオの内容が浮かんできた。その内容は30代から40代の働き盛りの年にうつ病で休職し、10ヶ月後に復職したある男性の話だった。最初私はこのビデオを見た時に、会社員をやっていてうつになって休職するようでは、社会ではやっていけないのではないかと思った。私は社会での競争は、学生の時の勉強よりも厳しいということを親から教えられていたからだ。しかし、私は他学部卒の親と違い、医学部の学生なので違った見方ができないかと考えてみた。私は中学、高校時代に人間関係のトラブルなので一時期うつになったことは先程言ったが、それだから私はうつになって悩める人の気持ちがわかるのではないかと考えた。だからそのような人を自分よりも心が弱い人だと見下すことなく、広い心でケアをしていかねばならないと思った。